よってたかって恋ですか?


     3



爽やかな秋空の下にて催されたは、
半期に一度級のお得な大売り出しとあって。
隣町のスーパーまで、静子さんと共に参戦して来たブッダ様。
戦利品に満足しきりなまま帰宅し、
お留守番を務めていたイエス様から
お片付けを待たずして“充電vv”と背中へ張り付かれ、
朝からずっとずっと続く幸せに
ご満悦で微笑んでおいでだったのだけれども。

 「あのね、
  さっき ふみちゃんからメールがあったんだ♪」

 「………ふみちゃん?」

お留守の間の出来事のご報告か、
途端にぴたりと手が止まった釈迦牟尼様だと、
気づいているやらいないやら。

 「覚えてる? ほら、せん
(先)の冬バレンタインデー辺りに、
  通ってる女学園の 先輩さんたちからのリクエストがあって、
  ブッダの手作りスィーツ、
  どうしても欲しいんですってお願いして来た。」

朗らかに続けたイエスの声へ、
素直にこっくりと頷いた如来様。

 「…うん、覚えてる。」

相手が女子の人だろうが小学生だろうが、
彼の側から見た“お友達”は ほぼ、
基本、名前付きで把握しているイエスなのも
今に始まったことでなし。
ましてや、微妙な因縁があったお相手だけに、
因縁のマイナス印象部分はこっちの勝手な悋気だったとはいえ、
結構 胸にチクリと来た事態だったので、
そういう意味から、忘れるのはやや難しかったブッダ様。
無邪気で愛らしかった、二人の女子高生たちの姿が、
それはあっさりと思い浮かべられもしたほどで。
冬場だったとあって、
制服の上へ重ね着していたコートも
その裾からちょっぴり覗いてたスカートの、
そのまた陰のひざ小僧も可愛くて。
学校の規則のせいか、今時 髪も染めてはなかったし
やや拙いながらお行儀もよかった二人だったが、
それでも何だか、わだかまるものが先に胸へやって来たのが、
自分でも苦しい反応であり。

 「メールって、メアド…」
 「うん。
  ほら、カップケーキの打ち合わせの連絡用にって。」

 まさかに女の子のを訊くわけにもいかないから、
 こっちのを教えてあったの。

 …そ、そうなんだ。

 「予餞会が済めば、
  もう用なんてなかろうから消すだろって思ってたら。」

 「連絡があった、と?」

会話を続ける二人の態勢は、
イエスがブッダの背中に張り付いてた最初のそれのまんまであり。
なので気づくのがやや遅れたイエスだったが、

 「…ブッダ、ちょっと声が怖い。」
 「えっと…。」

 ほらこっち向いて。

 誓って言うけど、あれ以来、
 まあ…外で顔合わせれば
 立ち話くらいはしたけど そこまでで。
 メールだって久々に来たんでびっくりしたほどだよ?

イエスがそれは事細かに紡いでくれて。
何より、こちらの双手をやはり両手がかりで掲げ持ち、
性懲りもないところを言い諭すというより、
自身の誠実さを判ってほしいのと、
懇願するよなお顔をするものだから。

 「…うん、ごめんなさい。///////」

疑ったんじゃあないと、
今更 言い出せなくてそこも却って辛い。

 “ああでも、そこは それこそ自業自得だ。”

自分でも判ってる。
二人とも純真でそれはいい子だったし、
イエスとは、そう、
同性のお姉さん相手でもこんなじゃあ?というよな接し方。
馴れ馴れしいというより懐いてたという感じで、
それへいちいち、
目くじらもどきのフラグが立ってしまう自分へこそ、
やだなぁと自己嫌悪してしまい、
それもあってのこと、ずんと気が重かったのであり。
お膝に載せた自分の手を見下ろしたまま、
しおしおと しおらしくも項垂れてしまっておれば。

 「…もぉお。」

向かい合ってたその正面から、イエスのそんな声がした。
ちょっぴり焦れているような強めの声。
それこそ、こちらの至らないところに焦れたのかと感じ、
たまらず ひやっと首をすくめかかれば、
そんな首っ玉ごと
こちらの肩をくるみ込んだのは、それは暖かな感触で。

 “え?”

シャツ越しの肉付きが感じられ、それがとっても頼もしくって。
温みに遅れて、だがその分 それは優しく香ったのは、
バラの匂いとそれから、甘酸っぱいオレンジの香りで。

 「ブッダ、焼き餅焼いたんじゃないんでしょ?」

 「え?」

そのくらいは判りますと、
そこをこそ責めるように真っ直ぐ見据えてくる彼であり。

 「ちらりと、ああ あのって思い出しながら、
  そんな特別な思い出し方をした自分が許せなかった。
  そうじゃないの?」

 「う…。」

身を起こしての伸び上がり、
長い腕でブッダの肩口を掴まえてしまい。
そのまま、大切な人を懐ろへとくるむように抱き込んでしまうと、

 「前にも言ったでしょ?
  焼き餅を焼かれるのは 好き好きの反動だもの、
  だから実は嬉しいんだよって。」

 「う…。////////」

 なのに、そこへも何か感じた。
 なんて狭量な自分かとか思って恥ずかしくなった。

 「違う?」

掻い込まれたことで間近となった耳元へ、
わざとだろう子供のような無邪気な言いようでこそりと囁かれ、

 「〜〜〜〜〜〜うん。///////」

うなじや頬が熱いのは、
見透かされたのが恥ずかしいのとそれから、
こうまで判ってもらえている嬉しさと。

 「…な、んで、」
 「判ったのか?」

そこも先んじて拾ったイエスは、にっこり微笑って、

 「だってブッダってば、
  すぐさま困ったようなお顔になったじゃない。」

焼き餅からなら、もちょっと強気と言うか

 「私ってものがありながらっていう、
  拗ねちゃってるような、それでいて甘えるみたいな
  そんなお顔になるからネ。」

 「〜〜〜っ。////////」

うわぁ、そんな、そういう顔してたの?わたし、と。
自分のことでありながらも、
鏡がないと、いやいや、気が高ぶっていようからこそ
冷静には気づけもしなかろうことを、
すっぱりと突き付けられたものだから。
強引に食いしばった口許がそれでもうにむにと震えるわ、
お顔ごと ますますと真っ赤になるわ。
こうまで間近だ、隠しようのないことばかりで、
ひょいと覗き込まれれば、すぐの目の先という、
そのくらいに、逃れようのない隠しようのない無様さでもあって。
だというに、

 「焼き餅なんて大人げないって思う、
  冷静さがあってこそだけど。
  そんな風にしょげちゃわないで?」

よしよしと大きな手のひらが背中を撫でてくれるのが、
恥ずかしくってたまらない顔をのぞき込まないよう、
ぎゅうと抱き締めたままでいてくれる彼なのが、
わざわざ言われずともようよう伝わる。
シャツ越しのやさしい頼もしさが、
総身をくるんでくれるのが、例えようもなく嬉しくて。

 “…ああ、やっぱりイエスって凄いなぁ。///////”

誤解されなかった、判ってもらえてるんだという、
途轍もない安堵から胸がほっこり温かい。
子供みたいに無邪気で、早とちりもしょっちゅうで、
どんな試練でも 結果 耐え抜く技量があるくせに、
大変だぁ〜っと何にも言わずに駆け出すことも少なくなくて。
そんなこんなに見舞われちゃあ、
ホトケである自分でさえ、時々振り回されちゃう、
何ともかんとも困ったお人で。

 でもネ、それでも 好きになってよかった、と

それをしみじみと感じ入る時の、この充足感の底知れなさが、

 “何ににも代えられないくらい 幸せなんだよねぇ。////////”

恋人だ想いびとだということ以外では、
畏れ多いとかいう方向での特別扱いもしないでいてくれる。
いやさ、だからこそ恋心を抱いてもくれたんだと思う、
どこまでも柔軟で素直な心の持ち主で。

 「いぃい? そういう自己嫌悪は無しだからね?」

いっそ焼き餅 焼いてくれた方がいいと、
これはイエスの側の、胸中にての独り言。
懐ろの尋がそれはそれは広いからか、
それとも人の機微というものを熟知してなさる人だからか。
罪やら罰やら 苦難に類しよう何でもかんでも、
その身へ集めてしまわれては、辛さを必死で耐える人でもあり。
そういうところが大雑把なイエスからすりゃ、
途轍もなく遠い対岸で あああと膝をついて残念がってるような
そんなブッダであることが、
こちらはただただ歯痒くてしょうがなく。
せめてイエスのことに関しては、
独りで辛い想いしないでほしいのと、
それこそ心から切に思うのも これ道理かと。

 「……イエス。」

くぅんと甘い声を出し、
いつの間にか彼からもこちらの背中へ回していたブッダの手が
何かをねだるよに きゅうとシャツを掴みしめる。
目の先へ間近になってた柔らかそうな耳が、
含羞みから真っ赤っ赤なのは変わらないけれど、

 「なぁに?」

そこへぼそりと返事をすれば、

 「…っ。///////」

ひゃぁあと小さく肩が躍り上がったブッダ様、
そのままその肩や背中へ、
深色の髪が はさりとほどけあふれたのは言うまでもなく。
しっとりつややか豊かな髪を総身にまとわせたことで、
嫋やかさが増した佇まいの君が、
含羞みも増したろに それでもそおとお顔を上げると、
そちらも真っ赤になった頬も初々しいまま、何ごとかを囁いて。

 「………うんvv」

ブッダ様曰く、精悍なお顔を頼もしくほころばせたヨシュア様。
畳の上、窓からすべり込んだ少し冷たい風がそよぐ中、
小さな顎へと手を添えて、まろやかなお顔を上向かせ、
柔らかで甘い唇をそれはやさしく啄んだのでありました。







  お題 9 『シャツ越しの温み』






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  *ますます何かと通じ合ってるお二人ですが、
   それでも判らないことや秘してることはあるようです。
   どっちにしても…お熱いだけですがvv

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